Re:天真爛漫

なんでもないようでなにかある日常を切り取ります

【御嶽山で山小屋グルメを味わい尽くす】vol.25

2024年9月、一泊二日で御嶽山へ初めて登った。奇しくも今年は御嶽山噴火から十年目の年だった。

2014年9月27日(土)午前11時52分、長野と岐阜の県境に位置する御嶽山頂(標高3,067m)は、噴火警戒レベル1であったにも関わらず、突如噴火した。休日かつ天候の良い日に起こった出来事であったため、死者・行方不明者は63名にのぼり、戦後最悪の火山災害として登山愛好家の間では語られる。

そんな今年、なぜ御嶽山に登ったかというと、「どんなお天気でも、山小屋でゆっくり過ごしてほしい」というコンセプトの小屋があると知ったからである。

夫の誕生月の9月に毎年、山小屋泊で登山へ出かけるのが恒例。しかし、今年はあいにくの天気でなかなか行先が決まらず、プラン立案係の夫はかなり悩まされた。

結果的にプランA(二泊三日のロングトレイル)からプランE(青森県岩木山八甲田山に登って弘前でフレンチ)まで立ててしまうくらい悩んだ末、プランBである御嶽山まで、山小屋グルメを味わい尽くす一泊二日の旅で合意した。

【妻から夫へのメッセージ】来年は9月に長期休暇取得するのはやめよう。もともと9月は台風が襲来しがちなうえ、近年ゲリラ豪雨等の恐れがある前線が発達しがちなため。

脱線した話を戻そう。

出かけるのであれば天気がいいに越したことはない。できるだけレインウェアを着ずに行動したい。そんな私の願いとは裏腹に、強風のせいでロープウェイは運行しておらず、中の湯登山口へ移動。中の湯駐車場に車を停め、車内で朝食を取ったり、出発の準備をしていると徐々に強まる雨音…。弱まる気配は一向にない。朝6:30、覚悟を決め、上下レインウェアを着用して歩き始めた。

雨で登山道が濡れているため、転倒しないように気を張りながら登る。八合目の女人堂までは樹林帯を淡々と登る。

途中で雨脚は弱まり、レインウェアを脱ぐことができた。レインウェアを脱いだ夫のTシャツに葉っぱが付いており、「おぬし、たぬきが化けた人間か?」スタイルで爆笑し、束の間の息抜き。

森林限界を越えると、非常に際どい場所に立っている石室山荘が目に飛び込んできた。よくあんな場所に山小屋を建設しようと思ったものだなぁ。この石室山荘の中を、「お邪魔しまーす」と突っ切って行く登山ルートになっているのは、実に謎である。

雨は降らないものの、途中から周囲がガスで覆われてしまい、眺望はゼロ。

やっとの思いで1つ目の山小屋グルメの提供場所、二ノ池ヒュッテに到着。看板がおしゃれでかわいい。グルメへの期待は益々高まる。ただ今の時刻は9:50。

ここでのお目当ては10時から提供が開始される、平日20食(休日は30食)限定の生麺を使用した担々麺。すでに3人の先客がいたものの、無事に数量限定の担々麺にありつけることが確定した。

二ノ池ヒュッテの標高は 2,905mで沸点が低いため、担々麺の監修をしている京都「まる担おがわ」が特別に麺を作ってくれているそう。

鉄鍋で提供される本格的な担々麺が、冷えた体をあっという間に温めてくれる。麺が非常に細く、伸びやすいため、写真撮影はほどほどにとのこと(by店主さん)

食べ時を逃しはしない!と、美味しいうちに啜る。100円で追い飯が可能であったため、今後の行程と寒さを考慮し、迷わず食す。麺だけでなく、お米にも合う美味しいスープ。ここは本当に山小屋か?と目を疑うレベルであった。

担々麺に別れを告げ、その後歩くこと50分ほど、今宵の宿泊地である五の池小屋に11時半すぎに到着した。

五の池小屋は北御嶽、飛騨頂上という標高2,798mの場所に建つ山小屋で、雲上の薪ストーブカフェであるぱんだ屋(宿泊者専用カフェ)が併設されている。なぜ、ぱんだ屋という名前なのかというと、単純にかわいいからという理由だそう。

相変わらずガスは晴れぬままなので、小屋内でのんびりすることに。二階の宿泊スペースで荷物の整理をしつつ、ぱんだ屋のオープン時刻である14時になるのを待った。

コロナ禍以降、ほとんどの山小屋が完全予約制になったため、寝るスペースは充分な余裕があり、必ず敷き布団一枚分は確保されている。昔、三連休に人気の山小屋に行き、夫婦で布団一枚を分け合って寝たのが今では考えられないし、もうあの時代には戻りたくない。

大体の荷物整理が済み、布団を敷き終えたら(布団敷いたらちゃっかり寝ちゃってた…)、小屋内の散策へ。

玄関脇の窓際には4人がけのテーブル席、カウンターに横並びで座ってゆったりすごせるスペース、朝食や夕食時にそれなりの大人数が一度に食事をできるであろう小上がりスペースなど、座って過ごせる場所は程よく用意されている。

小屋の中で最もお気に入りだったのがラウンジ。素敵なソファーと薪ストーブ(稼働はまだ)があって、眼の前には大きな窓。天気さえ良ければ、小屋内に居ながらも、摩利支天と呼ばれる山頂だったり、夕陽だったりがきれいに眺められるのだろうけれど、今回はおあずけ。

次に来るときには素敵な眺望を存分に楽しんで、外にある畳9畳分のたたみテラスで大の字になる、と早くもリピート決定。

14時になり、ぱんだ屋がオープン。待ちに待ったコーヒータイムが到来。山小屋で食すケーキも珈琲も、外界で食べるのと何の遜色ない。日によってケーキの種類は違うらしいが、この日はガトーショコラとシフォンケーキをチョイス。こりゃまた素敵なお皿とカップで提供してくれる。このお皿とカップは小屋で販売されており、購入が可能だ。下山時、何が起こるかわからないので(私は下山が苦手なので必ず一転びすることが確定している…)我が家へのお迎えは断念した。この柄の手ぬぐいが販売されていたら絶対に買ったのに…。手ぬぐいは小屋名が印字された、全く違う柄の物が販売されていた。

ケーキを食べ終えても珈琲はまだまだ余るほど、たっぷりのボリューム感。持参したおやつをお供に、夕食までの時間を過ごす。夕食の準備が始まると、食事スペースからは一時的に撤退せねばならない。再び、お布団でごろごろする。楽天モバイルユーザーの私は、全く電波が入らず、強制的にデジタルデトックス。小屋内の蔵書、逢沢りくを読んで過ごした。

夕食の時刻である17時になるとお声がかかるので、食券を持って食事場所へと向かう。ここで会うのが初めましての方々と同じ釜の飯を食う。大体の山小屋がおかずだけ食卓に並べておいて、ご飯、汁物、お茶は各テーブルでよそってねスタイル。

夕食のメインは豚肉の塩麹漬け、野菜も多く添えられており、満足度は高い。ぱんだカフェのカップが素敵だったように、おかずプレートのお皿も深い青で器に対するこだわりが見受けられた。

ペロリと夕食を平らげたあとは、雲の切れ間からやっと見えるサンセットタイム。みんな一斉に小屋から飛び出して、パシャパシャ撮影しているのを見ていると、山に来ると年齢って関係なく楽しめるんだと実感する。

夕食でせっかく温まった体が、一瞬でまた冷えてしまう。9月といえど、山の上はぐっと冷え込む。

夕食時に予約した、窯焼きピザをいただいて、風邪を引かないように温まろう。焼きたてをすぐに提供してくれて、カリッカリのクリスピー生地が素晴らしい仕上がり。山の上なのに、こんなに美味しいものをいただいちゃっていいのかしら?温かみのある照明に包まれた夜の小屋内は、昼間とはまた違う印象。

食べるだけ食べて晩酌をしない私は、明朝の日の出がきれいに見えますようにと願い、消灯時刻の21時よりも前に就寝。

翌朝5 時、カメラ小僧である夫に起こされ、完璧な防寒スタイルに身を包み、寒空の下へ。雨は降っていないが、風はかなり強い。

そんななか、皆それぞれ確保した撮影ポイントで、今か今かと日の出を待つ。次第に明るくなる遠くの空に期待が高まる。

太陽が出ちゃうとあっという間に朝のリレー(by谷川俊太郎

爆風の中、皆必死でシャッターを切る。

朝食の時刻5:45になり、朝焼けに後ろ髪を引かれつつ、朝食をいただく。鮭のハラス、紀州南高梅、デザートにオレンジ。写真では切れてしまっているが、味噌汁の薄揚げが初めて食べる食感で、何杯でもおかわりできる絶品味噌汁だった!(欲を言えば、スープではなく夜も味噌汁がいい!)

朝食時に朝食後や食後の散策後にいただける、薪ストーブで焼くアップルパイ(ひとつ800円)の予約が可能。このアップルパイを食べに来たと言っても過言ではないので、即予約。6:30過ぎには第一陣が焼き上がり、熱々をいただいた。これはもぅ、幸せの味!また絶対に食べに来るね!

おもてなしの精神に溢れた、五の池小屋を泣く泣く出発。ピークを踏まにゃ私は帰れませんので、御嶽山の最高峰である剣ヶ峰を目指します。ビビって足が進まないくらいの強風の中、偶然遭遇したライチョウさんを先導者にして進みます。あまりの強風で、ライチョウさんは早々にどこかへ飛んでいきました。天気が良くない日はライチョウさんに会える確率が相当高い。身体は保護色なのに、足はまっしろなところがかわいいの。

道中、強風が弱まるのを姿勢を低くして待つご夫婦を追い越し、二ノ池まで来ると次第にガスが晴れてきた。二ノ池はかつてはエメラルドグリーンの池だったそうだが、雪解け水と共に噴火で生じた火山灰が降りてしまい、今では砂漠のような見た目に変化してしまった。地面は砂漠のようだが、やっぱり青空が見えると元気が出て、体力も復活する。ちょっと移動するだけで、いろんな景色が楽しめる、飽きのこない御嶽山。季節を変えて訪れるのもきっと楽しいだろうなぁ。

噴火から十年経った今でも、登山道の途中には噴石と見られる石がごろごろと転がっており、凄まじい噴火であったことを物語っている。剣ヶ峰に近づくにつれ、ところどころにシェルターが。噴火の危険性は常にゼロではないので、登る際にはヘルメットを持参することをおすすめする。

剣ヶ峰へと続く、最後の石段を登り切ると、最高に見晴らしの良い景色が待っていました。うわぁ〜と感動したのもつかの間、一瞬で雲に覆われて何も見えなくなったりする、それもまた登山の醍醐味。

山頂の景色をしっかりと目に焼き付けたし、山小屋グルメも食べ尽くしたし、あとはもう今まで来た道を下るのみ。剣ヶ峰から中の湯駐車場まで2時間半で下山した。おつかれ山でした。

消費カロリーよりも摂取カロリーの方が上回っているんじゃないか疑惑が出るほど、グルメに特化した登山旅でした。これはいつものこと。

御嶽山は日帰り登山も可能だが、山小屋に宿泊し、小屋グルメを相棒に、のんびり過ごす旅をオススメする。

【旅の行程のおさらい】

一日目 6:30出発、 中の湯登山口〜飯森小屋〜一の又小屋〜女人堂〜石室山荘〜二ノ池山荘〜二の池ヒュッテ〜白竜避難小屋〜飛騨頂上〜五の池小屋11:30着

二日目:7:20出発、 五の池小屋〜飛騨頂上〜白竜避難小屋〜二の池ヒュッテ〜二ノ池山荘〜剣ヶ峰〜石室山荘〜女人堂〜一の又小屋〜飯森小屋〜中の湯登山口 11:50着

 

最後までお読みいただきありがとうございました。